公共業務の受託企業が年金保険料を過少納付。

公共業務の受託企業が年金保険料を過少納付。是正進まず、時効になる恐れも(東洋経済オンライン

国から公共サービス業務を請け負っている民間企業2社が、実態よりも低い標準報酬月額に基づいて厚生年金保険料を過少に納めていた事実が判明した。

問題が発覚したのは、法務省から全国の法務局内に置かれた登記所の運営業務や入国管理局の業務を受託している「アイエーカンパニー有限会社」および「ATGcompany株式会社」の2社(ともに本社は東京・世田谷区の同一ビル内)。両社の代表を務める大屋武志氏が11月25日、東京都労働委員会で行われた不当労働行為救済申し立て(団体交渉拒否)に関する証人尋問で厚生年金保険料を過少に納付していた事実を認めた。

標準報酬月額は厚生年金保険料の算定基礎となるもので、給与水準に応じて月額9万8000円から62万円までの30等級に分かれている。厚生年金保険料は標準報酬月額に基づいて決められており、労使折半で負担したうえで、事業主が毎月、従業員の分とまとめて納める仕組みになっている。保険料を過少に納付した場合、企業は本来の保険料負担を免れる一方、社員も将来の年金の受取額が本来の額よりも少なくなってしまう。過少納付は厚生年金保険法に違反しており、違反した企業には罰則(6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金)も設けられている。

アイエーカンパニーなど2社では、実際の給与支払額に基づかずに最低の標準報酬月額である9万8000円を前提として保険料を納めていた該当者が「50人くらいいる」と、大屋氏が11月25日の都労委の証人尋問で発言した。ただ、「現在も該当者をピックアップしている最中」(大屋氏)で、過少納付の全貌はつかめていない。今後の調査によっては、「数百人規模になる可能性もある」と同社の元社員は指摘している。

過少納付の事実が浮上したのは2010年5月末頃。社員の一人が給与明細を見て不審に感じたのがきっかけだった。その後、昨年11月に年金事務所の窓口で相談したところ、厚生年金に未加入の月があったことや、実際の給料よりも低い標準報酬に基づいて保険料が納付されていたことがわかった。さらに今年5月に送られてきた年金定期便の記録で、2010年4月が未加入、5月以降の標準報酬月額が9万8000円になってい たことが再確認できた(写真参照)。この社員は会社に是正を求めたが、「会社はできませんの一点張りで、現在も記録は訂正されていない」(同社員)とい う。その後、ほかの複数の社員でも、標準報酬月額に誤りがあることが判明した。

アイエーカンパニーおよびATGcompanyでは、年 金保険料の過少申告だけでなく、残業代不払いも発生している。これらの問題について、社員が労働組合に加入して団体交渉を通じての解決を求めてきたが、企 業側は拒否し続けてきた。そのため、労組側が都労委に不当労働行為の救済を申し立てていた。

アイエーカンパニーなど2社は今年5月、情報の目的外利用などを理由に、法務省から2カ月にわたり一部業務停止処分を受けている。その後、新たなコンプライアンス体制の構築ができていないことなどを理由に、停止期間はさらに2カ月にわたって延長。9月17日に業務を再開したものの、厚生年金保険料納付に関する違法状態は現在も続いている。

両社代表の大屋氏は都労委の尋問で年金保険料の過少納付問題について、「年度末までに解決を図りたい」と語ったが、実現は不透明。現在、日本年金機構が調査を進めているものの、万が一、解決が4月以降にずれ込んだ場合、年金保険料の納付期限到来で時効になる可能性もある。その場合、社員に不利益が及ぶのみならず、厚生年金財政にも悪影響を与えかねない。そうなれば、問題企業を放置してきた監督官庁の法務省も責任を問われる可能性が高い。

 

喜屋武事務所ではインターネット経由で登記事項証明書を請求する、かんたん申請へほぼ移行しているので乙号事務を担当する職員の方々との接触は減ってきています。が、こんな状況になっていたんですね。この件に限らず、民間へ委託したから知らない、関係ないという対応では済まされなさそう。